「夫婦で歩くスイスアルプス」

フェレ峠周遊ハイキング

2008年9月16日。今日こそ晴天の下でハイキングできそうなので、イタリア・フランスとの3国国境に近いフェレ峠を目指すことにしました。が、シャンペ村から南方を眺めると、アントルモン谷の奥は青空なのに、フェレ谷の方は雲に覆われています。路線バスの終点フェレ村に降り立っても、空はどんより。「今日はグラン・サン・ベルナール峠の方に行けば良かったかなぁ」と後悔しましたが、今更どうしようもありません。乗ってきたバスが帰っていくのを見送り、案内標識に従って村の西を流れるラ・ドランス・ド・フェレ川を木橋で渡ります。

支流に架かる別の木橋を渡った先の草原からフェレ村を振り返って。ホテルと礼拝堂の他に数軒の家屋があるだけの小さな集落です。

草原を少し登るとラ・レシェール小屋がありました。既にオフ・シーズンのためか人影は無し。そのまま先へ進みます。

ラ・レシェール小屋の上方にはレシェール・ドシューの放牧場が広がっています。この南縁を登っていくのが本来のルートのようですが、我が家はその手前で狩猟に来ていた小父さん3人組に出くわした弾みでビビって道を見失い、牧場の真ん中を直登する羽目になりました。放牧場はぬかるんでいて、カミさんは泥とも牛糞ともつかない中に足首まで埋まってしまい、完全におかんむり。何とか牧場の上手にある農家小屋に辿り着き、その前に立つ十字架の脇からフェレ谷を見下ろしたところです。写真奥に見えているのはラ・フリの村。

草原の斜面を緩やかに登り、正面に近づいてくる小山クレテ・ド・ラ・ペルシュの手前で右手の尾根を越えて西側の谷に出たところです。右手に氷河が眺められる筈なんですが、相変わらず雲が掛かって見えません。足許の草は着氷していて、登るにつれて風景が白っぽくなってきました。

可憐な草花がこのとおり。強い北風が吹いたんでしょう、細い茎にも北に向かって綺麗に氷が付いています。

前方にフェレ小峠が近づく頃、ようやく雲が取れて青空が広がってきました。草丈がどんどん短くなり、次第にガレ場に変わってきます。

振り返ってフェレ谷を見下ろした図。遠くの雲の上に頭を出している山は、ローヌ谷の北側に位置するヴィルトホルン(3,248m)です。

行く手の雪渓の先がフェレ小峠(海抜2,490m)。ガレた左斜面を登っていきます。空は快晴になりましたが、登るにつれて北風がどんどん強くなってきます。

フェレ小峠は狭い谷間のため、眺望は今ひとつでした。国境の筈なのに特に何の標識も無いので、そのままイタリア側に出て、「フェレ大峠へ」の道標に従って斜面を東へトラバースします。イタリア側の南斜面に出れば北風が収まるかと思ったんですが、期待に反してびゅんびゅん吹きすさんでいました。足元の斜面も凍っていたりぬかるんでいたりして、滑らないよう神経を使いました。

フェレ小峠からフェレ大峠に向かうトラバース道から見下ろすイタリアのフェレ谷。この谷を下った先にクールマイユールの町があります。谷底の手前に見えているのは、「トゥール・デュ・モン・ブラン」トレッキングの中継地になるエレーナ小屋です。

南斜面のトラバースを終えて国境の稜線上に出てきました。写真は国境の道標です(「S」はスイスを示します。反対側にはイタリアを示す「I」の文字)。後方の山は、中央がモン・ド・グルヴェッタ(3,684m)、その右奥がレショー針峰(3,759m)、レブルマン針峰(3,599m)を挟んで右端がタレーフル針峰(3,730m)。その手前にトリオレ氷河が見えています。モン・ド・グルヴェッタの左肩に覗いているのがグランド・ジョラス(4,208m)。モン・ド・グルヴェッタ以外はいずれもイタリア・フランス国境の山々です。

タレーフル針峰の右手にはプレ・ド・バール氷河が美しく流れ下っています。氷河の正面奥に聳える高峰はトリオレ針峰(3,870m)で、右の高峰がスイス・フランス・イタリア3国境の山モン・ドラン(3,820m)。右端はポワント・アロブロージャ(3,172m)で、その手前の雲が掛かっている谷間が越えてきたフェレ小峠です。

国境の稜線上をフェレ大峠に向かいます。快適な草地の尾根道で展望も抜群ですが、相変わらず北風が強く、耳や手先が痛いです。

フェレ大峠(海抜2,537m)に到着。案内標識も着氷してご覧のとおりの姿になっていました。ちょうどイタリア側から「トゥール・デュ・モン・ブラン」コースを辿って登ってきた小父さんに出会いましたが、何と半ズボン姿。こちらが驚いた表情をしたら、さすがに苦笑いしていましたが…。小父さんの後方に見えているのが、これもスイス・イタリア国境の山モン・ヴェラン(3,731m)。案内標識の左の雲間にはグラン・コンバン(4,314m)の頭も覗いています。

フェレ大峠からスイス側へ下ると、風が途端に弱くなり、ポカポカ陽気の下に緑の草原が広がっていました。北側に山があって北風を遮っているからなんでしょうが、稜線上で凍えたのが嘘のようでした。「トゥール・デュ・モン・ブラン」コース上のルートなので、道幅も広く歩きやすくなりました。草原の中に腰を下ろし、持参したサンドウィッチで昼食にします。峠の向こうに並ぶグランド・ジョラス、モン・ド・グルヴェッタ、レショー針峰の山々が、何故か峠からよりも大きく見えて美しいです。

草地の丘のように見えるラ・ドッツ山の南斜面を、前方のフェレ谷に向けて下っていきます。正面右の山はモン・テリエ(2,951m)、左端の山がラ・ツァーブル(別名モン・フェレ、2,978m)です。

フェレ谷の奥へ出てきたところにラ・プールの牧畜小屋があり、飲み物や軽食も摂れる休憩場所になっています(※)。一緒に下ってきた青年が小屋のお姉さんにこの先の道を尋ねていましたが、「谷底の車道を通っても上手の道を辿ってもフェレ村まで1時間」とのこと。「トゥール・デュ・モン・ブラン」の本来のルートは前者のようですが、「同じ時間なら」と我が家も青年とともに後者を選びました。
(※)【追記】ラ・プールの牧畜小屋には宿泊することもできます。実際にお泊りになったJinさんの記事によると、個室もあるとのこと。また写真に写っているパオ2棟の中には麦藁が敷き詰めてあり、寝袋等を持っていけばここに泊まることもできるそうです。

上手の道は途中で少し登りになる場所もありましたが、進むにつれて高峰と氷河が顔を出し、こちらの道を選んで良かったと思いました。左がモン・ドラン、中央がトゥール・ノワール(3,836m)、右端がグラン・ダレ(3,514m)の山々です。

トゥール・ノワールとグラン・ダレの間を流れ下るのはラー・ヌーヴ氷河。写真右下の谷底にゴールのフェレ村が見えています。

モン・ドランとその左に延びるモン・グレピヨン連峰を一望する場所に出てきました。手前の谷の向こうに見える稜線上が今朝登っていった道です。

モン・ドランとドラン氷河のアップ。眺めを存分に楽しんでからフェレ村に下りました。


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